注意! ネタバレあり〼
兵庫県豊岡市出石 第十二回 永楽館歌舞伎
2019年11月4日(月・休)~11月10日(日)
第12回 永楽館歌舞伎 千秋楽に行ってきました。
前日の夜は雨が降りましたが、当日はすっかり晴れて心地よい秋の一日となりました。
永楽館はとても小さな小屋で、演者と観客の距離が近く、一体感が半端ない劇場です。
演目1つ目は、
新作歌舞伎「道成寺再鐘供養~仙石権兵衛出世噺~」(どうじょうじごにちのかねくよう~せんごくごんべえしゅっせばなし~)
仙石権兵衛とは、ご当地出石藩を治めた仙石家の初代当主。
実在の武将で、あの大泥棒石川五右衛門を捕えたことで有名だそうです。
そしてもう一つ、この権兵衛さんが秀吉の命で紀州征伐に出た折、山中に放置されていた道成寺の鐘を見つけて持ち帰ったという逸話があるそうです。
↑ その権兵衛さんを主役にした漫画もあります。
この新作歌舞伎の始まりは、安珍清姫の物語から。
宗之助丈の安珍と壱太郎丈の清姫。
この美しい清姫の誘いをよく断れたな安珍。
とにかく恋心を踏みにじられた清姫は、恨みのあまり大蛇に姿を変え、安珍が身を隠した道成寺の梵鐘ごと焼き尽くし、安珍を殺す。
そして400年後、諸国一見の僧が、道成寺で鐘再興の供養が行われると話してくれる。
さて、この芝居の中で役者さんがセリフを忘れるというハプニングがありました。
次のセリフが出てこずに、「・・ん?」となって、他の方がセリフの出だしを小声で教えてあげる、というやつです。
他の歌舞伎舞台でも時々あることなのですが、永楽館はとても小さな小屋です。
そのため、焦る役者さんの表情、小さな仕草や息使い、教えてあげる小声のセリフなど、全てが手に取るように分かります。
なので、その一挙手一投足がとても身近に感じられて、お客様は大喜び。
会場中が笑いに包まれました。
温かいなぁ永楽館、と思う一方、私は十八世勘三郎さんの言葉を思い出しました。
「(小さな小屋では)何でも反応してくれる、どこまででもやったら反応がいいから、それに甘えていっちゃうと芸が荒れていく。観客が沸いている時ほど怖いことはない。」
ああ、こういう事かと。
芝居を観ている側の私は、小さな間違い一つでも何だか面白くて、頑張れ頑張れって感じで無責任に楽しんでしまうけど、役者さんたちはきっとこのミスを良しとせず、自分を律して次に活かしていくのだろうなと考えると、何だかハッとしました。
だって観ている側はただただ楽しいし嬉しい。
やっぱり役者さんはスゴイ。永楽館だからこその実感でした。
物語はお馴染み白拍子花子と所化のやり取りがあってから、次の幕で二百年後に時代は移る。
紀州山中の一つ家に、愛之助丈演じる仙石権兵衛が一夜の宿を頼むところから話が動き出す。
一つ家の住人は吉弥丈演じる老婆とその養女小笹(吉太朗丈)。
可憐な小笹は、権兵衛さんに一目ぼれしてしまう。
分かる分かる。
愛之助丈演じる権兵衛さんは、いかにも強そうで分別ありそうで身なりも立派でお顔もキレイな男前。白塗り。
家主の老婆は、旅人を殺しては金品を奪うという悪党で、娘の小笹にその手伝いをさせていた。
今回も上手くやるように小笹に言い含める吉弥丈老婆が、すごい悪い顔してのりのりで肘で小突いてくる感じで、吉弥丈面白い。
なんちゅう演技するんや。永楽館最高。
しかし小笹は身代わりになって権兵衛さんを助ける。
権兵衛さんに斬られた老婆は正体を現す。
老婆、実は清姫の霊。
あんなに美しかった清姫がこんな老婆に・・・。
気持ちの整理が追い付かないまま老婆は大蛇に姿を変える。
ここで岩見神楽の大蛇が登場。
さすが動きが素晴らしく、長い体で器用にとぐろを巻いて、口からは火を噴く演出!
雷鳴と共に、一つ家が一瞬にして崩れ落ちあばら家に変わるなど、ケレン味たっぷりの演出で沸かせてひとまず幕。
火を噴いたため、会場内は煙と火薬の匂いが充満。
休憩中、窓が開けられて、空気の入れ替えが行われました。
外のひんやりとした空気が、興奮する劇場内を気持ちよく冷ましてくれました。
ああ、小さい小屋ってこういうところも楽しい。
最終幕は、筋隈を入れた荒事ヒーローの拵えの権兵衛さんと、赤い長い毛を振り乱し妖怪隈を入れた清姫の、梵鐘をめぐる戦い。
ここで清姫の配役は壱太郎丈に戻る。
いつもの道成寺ならば激しく戦って終わりなのだが、突然、妖怪清姫が「貴方じゃ、貴方じゃ、貴方じゃわいなぁ」と権兵衛さんに安珍の面影を見て恋に落ちる。
権兵衛さんも困って、求愛の踊りをのらりくらりとやり過ごす。
こんなの見たことない。
荒事のヒーローに、妖怪が求愛している・・・。
普段の道成寺では絶対に観られない展開。永楽館最高。
壱ちゃん妖怪清姫カワイイし、このまま二人くっついちゃえばいいのに。
人外と人間のラブロマンス。
人外とイケメン、くっついちゃえばいいのにー。
人外の本能抑えきれずに喉元を狙ってくる清姫に、困った奴めと言いながら力技で圧倒する権兵衛、そしてやっぱり言う事聞いちゃう妖怪清姫(妄想)
人外とイケメンーくっついちゃえば
ところが権兵衛さんは清姫を振り切り、梵鐘を貰って帰ると言う。
清姫は鐘は渡せないという事で、結局二人は戦い権兵衛さんが勝つ。
清姫は最後、直立のままうつぶせに倒れる見事な仏倒しを披露。
会場からは悲鳴のような歓声が上がり、拍手喝采でした。
ラスト花道で権兵衛さんが「やっとことっちゃあうんとこな」の掛け声とともに梵鐘を引っ張って帰る。
しかし引きずるのも面倒だと、梵鐘を両手で天高く持ち上げる。
その勇ましい姿に、会場は沸きに沸いて、大歓声のうちに幕となりました。
大興奮のうちに一つ目の演目が終わり、次は
「滑稽俄安宅新関(おどけにわかあたかのしんせき)」
これも永楽館でしか観られないハチャメチャな演目で、めちゃくちゃ楽しかったです。
ネタバレ感想その2へ続く。
第12回 永楽館歌舞伎 ネタバレ感想その2マンホールの蓋もカワイイ出石の町。