注意!ネタバレややあり〼
©2016「の・ようなもの のようなもの」製作委員会
森田芳光監督の劇場映画デビュー作『の・ようなもの』の35年後を描いた作品。
『の・ようなもの』のネタバレ感想はこちら ↓
の・ようなもの 映画ネタバレ感想森田芳光監督は2011年に急逝。
森田組で助監督を続けた杉山泰一氏が、森田組のスタッフ・キャストと共に本作で監督デビューを果たす。
全てのスタッフ・キャスト達の、森田芳光監督への想いが詰まった作品で、森田作品へのオマージュ的なシーンやセリフが盛り込まれている。
この映画のオープニングも、オリジナル『の・ようなもの』のパロディシーンから始まる。
オリジナルを見ていなくても十分楽しめるが、見ているとさらに細かいところが楽しめる。
売れない落語家 “志ん田(しんでん)” は、師匠 “志ん米(しんこめ)” から、かつて一門にいた “志ん魚(しんとと)” という男を探すように言われる。
大師匠 “志ん扇(しんせん)” の13回忌追善一門会に志ん魚を出演させるためだ。
志ん魚を探して、日光・信州・東京谷中と歩き回る中で、かつての森田作品の常連たちが豪華出演する。
ざっと挙げるだけでも
佐々木蔵之介さん
ピエール瀧さん
鈴木京香さん
笹野高史さん
宮川一朗太さん
仲村トオルさん
鈴木亮平さん
塚地武雅さん
あがた森魚さん
内海桂子さん
しかも各自、自身の出演作のパロディ的なセリフを喋る。
『家族ゲーム』の宮川一朗太さん演じる弁当屋のご主人が、「誰かいい家庭教師知らない?」とか言ったりする。
内海桂子師匠などは、オリジナル版に続いてのご出演で、非常に味のあるセリフ回しでさすがの印象を残している。
その他、ゲストだけではなく主要キャラも森田作品の常連さんばかり。
志ん魚(伊藤克信さん)はもちろん、志ん米(尾藤イサオさん)や志ん水(でんでんさん)はオリジナル版と同じキャスト。
信州でうどん屋を営んでいた志ん肉(小林まさひろさん)、IT系に転職した志ん菜(大野貴保さん)もオリジナルキャストだ。
かつて売れない落語家として、同じ夢を見て同じ青春を過ごしていた人々。
落語家を続けられた者、続けられなかった者。
オリジナル版で焦燥感にも似た若さを謳歌していた彼らが、年を取って淡々と人生を続けている姿に、何か寂しいような気持ちがした。
しかし今作の主人公志ん田や夕美など若い世代のおかげで、この映画全体が明るくさっぱりとした作品になっている。
(そう言えば、オリジナル版での志ん魚の彼女の名前も “由美ちゃん” だった。)
物語の中盤、ようやく見つかった志ん魚は、「師匠と一緒に灰になった」とやる気を見せないが、志ん田の必死の説得と努力のおかげで、ついには高座に上がる。
志ん魚役の伊藤克信さんの、味わい深い栃木訛りは健在だ。
高座が終わり、楽屋で話す落語家たちの「師匠は聞いてくれましたかね」「ここに来てんだよ」という会話はまさに、スタッフ・キャストそして我々観客たちの、森田芳光監督への想いを代弁するかのようなシーンだった。
追善一門会から数日して志ん田が挨拶に行くと、すでに志ん魚は姿を消していた。
でもどこかできっと飄々と生きているだろう。
オリジナル版と同じ、尾藤イサオ氏が歌うエンディングテーマ「シー・ユー・アゲイン 雰囲気」が流れる中、一人明るく歩いて行く志ん田。
オリジナル版のエンディングでは、どこか切ない雰囲気があり、テーマ曲にも物悲しい余韻を感じさせた。
大勢の中にいても孤独を感じるような寂しさだ。
しかし今作は、同じテーマ曲であっても印象は明るい。
一人でいても決して孤独ではない、そんな愛情を感じさせる静けさのうちに映画は終わる。
森田監督に陰気にさよならするのではなく、明るく手を振っているような、そんな終わり方だった。
森田芳光監督は、「次は松山ケンイチと北川景子で新作を撮りたい」と生前北川景子さんに話していたそうだ。
だから今回、数多くの森田作品出演俳優たちの中で、このお二人が主演を務められたのだろう。
映画『の・ようなもの のようなもの』は、“森田芳光監督への手紙”のようなものだった。
しみじみと胸が温かい。
本作品の配信情報は2019年11月25日時点のものです。 最新の配信状況についてはホームページをご確認ください。
劇中で立派な姿を見せるヒマラヤ杉と、懐かしい風景の残る谷中の街並みがとても美しかった。
このヒマラヤ杉は、景観重要樹木・保護樹木に指定されているが、有志の方々が保護活動もされている。
この先も守られ続けていくことを願わずにはいられない。
2019年10月の台風19号により、大きな枝の一つが折れて隣のお店に倒れてしまったが、撤去も済んでお店の方もヒマラヤ杉も無事だったらしい。
いつか実物を見に行きたい。
ちなみに、志ん魚役の伊藤克信さんは、かつて日本テレビ系列の番組『ズームイン!!朝!』の「プロ野球イレコミ情報」のコーナーにおいて、ヤクルト担当キャスターをしていた方でもある。
劇中で披露される、菅原大吉さんの志ん魚の物真似は激似。
そしてジュリーにも出てほしかった。
DMM.comのDVD宅配レンタルもあり。
原案:森田芳光
監督:杉山泰一
脚本:堀口正樹
撮影:沖村志宏
主題歌:尾藤イサオ「シー・ユー・アゲイン 雰囲気」
(作詞:タリモ 作曲:浜田金吾 編曲:塩村宰)
製作年:2016年