東海道四谷怪談 南座 ネタバレ感想

注意! ネタバレあり〼

南座新開場記念 九月花形歌舞伎
通し狂言「東海道四谷怪談」
2019年(令和元年) 9月2日(月)~26日(木)


「東海道四谷怪談」は、綯い交ぜとご都合主義の絢爛豪華なストーリーと、ステキに面白い舞台装置のトリックとが見どころの、エンターテインメント狂言の人気作。
この狂言が関西で上演されるのは26年ぶりとの事。

歌舞伎のことはあまり知らなくても、「お岩さん」という幽霊のことは何となく知っている、という方もいるだろうか。

作者は四世鶴屋南北、通称 大南北(おおなんぼく)。
五代目までいる鶴屋南北のうちでも、特に大ヒット狂言を何作も何作も書いたので、四代目は「大」南北なのだ。


中村七之助丈はキレイ。知ってる知ってる。
若い時からずーっと、女形やっても立役やっても、キレイ。
七之助丈を舞台で見たことがある人は誰でも知っていると思う。キレイ。

が!!
齢36を迎え、大人になり、脂がのってきたとはこの事か、ただならぬ色気を発し始めている・・・。
もはやキレイの一言では済まされない。
三役見事な早変わりで演じ分けていたが、上手さの上に色気がプラスされてタマラン事になり始めている。
もう一度劇場へ匂いを嗅ぎに行きたい。

そして関西勢には馴染みの片岡愛之助丈。
今回のメンツの中で立つと、安定感が抜群に目立った。
愛之助丈は普段、自分が中心になって舞台を引っ張ることが多いので、その上手さが目立つことはあまりないように思う。
もう少し「色悪」の艶が欲しかったのは正直なところだが、しかしこの舞台、七之助丈と愛之助丈の二人がいなければ、なかなかにツライものになったのではなかろうかと思わせるほどに、愛之助丈の安心感が大きかったように思う。

愛之助丈を大事にしていかなければならぬ、と関西の一歌舞伎ファンである私はしみじみと唇を噛み締めたのであった。

それはさておき、市川中車丈である。
声がガラガラだった・・・まだ始まったばかりなのに声が!?と思ったけど、まあ多分大丈夫でしょう。それくらい信頼を寄せている私。
この方の初めての歌舞伎舞台を観た時には、観ているこちらも緊張するくらいだったけど、だんだん中車丈本来の演技の上手さが出てくるようになって、やっぱり上手いなぁこの人!!ってドキドキワクワクさせてくれる役者さんである。大好き。

中村壱太郎丈、片岡亀蔵丈、ベテラン勢らがしっかり脇を固め、若手が大役を天晴れ演じ切る。皆素晴らしい。壱ちゃんは美しい。

中でも目を引いたのがベテラン市村萬次郎丈の素晴らしさで、舞台全体をしっかりと地に引き付けている大事な大事な存在感があった。
大好きな役者さんの一人になった。

中堅どころが中心となった今回の舞台は「未完の大作」といった趣のある、大きさを感じさせてくれる芝居だった。

この先何年も何十年もかけてどう完成に向かうのか、見続けていきたい役者が揃った「花形」の名にふさわしい美しい舞台だった。