注意! ネタバレあり〼
目次
小倉城天守閣再建60周年
平成中村座小倉城公演
2019年(令和元年)11月1日(金)~26日(火)
平成中村座が初めて九州に上陸という記念すべき公演。
そして今回注目だったのが出演者の顔ぶれでした。
18世中村勘三郎さんが亡くなられてからも、何度か平成中村座は興行をしています。
中村座初期からお馴染みの主要な役者陣が、中村扇雀丈・中村芝翫丈(当時橋之助)・坂東彌十郎丈・片岡亀蔵丈です。
勘三郎さんがいなくなって初めての平成中村座では、勘三郎さんの映像が流れて思わず泣いてしまったのを覚えています。
そして2018年には平成中村座での七回忌追善興行も行われ、一度一区切りがついたという事だったのでしょうか。
今回の小倉城公演では扇雀丈と芝翫丈はご出演されず、新たに中村獅童丈が重要な配役となり、彌十郎丈・亀蔵丈が脇を固めるという形での興行となりました。
新しい世代が担っていく、“新生中村座” のような印象を受けました。
かつて大阪平成中村座で、出演のない獅童さんが通路脇からこっそり舞台を見学していて、勘三郎さんから思いっきりいじられて劇場中が沸いた時の事が思い出されます。
昼の部
一、神霊矢口渡
平賀源内(筆名:福内鬼外)が書いた浄瑠璃が原作。
新田義峯を捕えて褒美を貰おうとする強欲な頓兵衛。
義峯に一目ぼれをする頓兵衛の娘お舟。
頓兵衛は邪魔をする娘お舟を傷つけてでも褒美を欲しがる。
お舟は自分の命を犠牲にして、愛する義峯を逃がす。
お舟を演じるのは中村七之助丈。
美しいのはもちろんのこと、庶民の娘らしい素朴さといじらしさもしっかり感じられてとても可愛らしかった。
そして橋之助丈・鶴松丈・いてう丈らが実に堅実に、実に優雅に脇を固めていた。
そしてやはり特筆すべきは、坂東彌十郎丈の頓兵衛だ。
実に強欲で苦々しく、小物のくせに大物っぷりを感じさせる絶妙なふてぶてしさで、貫録ある悪党ぶりだった。
刀の鍔が、歯ぎしりするように苛立たしく、そして美しく鳴り響いた。
二、お祭り
鳶頭の美しさが堪能できる舞踊もの。
江戸時代の鳶職人と言えば、喧嘩が強くて漢気があって色気ムンムンの男前の代名詞。
待ってました!のかけ声に「待っていたとはありがてぇ」と勘九郎丈が爽やかに答えて、劇場中が大喝采でした。
清元延寿太夫さんの声が美しく、大向うがかかった時には大興奮でした。
大向うさんありがとう。
後ろの扉が開いて小倉城が見えるという、中村座ならではの演出です。
私は外からも応援しました。
寒い中、勘九郎さんが外へ向かって挨拶してくれます。
ほとんど見えませんが、みんな手を振って大喜びでした。
地元のテレビ局が取材に来ていました。
当日の夕方に放送と言っていたようでしたが、このニュースが見られる地元の方が羨ましかったです。
三、恋飛脚大和往来 <封印切>
そして封印切です。
何故封印切を選んだのか、というのは中村座の話だけではなく、どこの小屋でかかっても少し思ってしまう。
現代で楽しむには難しい演目だと思います。
江戸時代、あの公金の封を勝手に切るという行為は、どんな理由であれ確実に死罪です。
忠兵衛は引くに引けず命懸けで、小判の封を爪でこすって切れ目を入れます。
(もしくは、コンコンと叩いている勢いで切れてしまう。)
おそらく封が切れた時の忠兵衛の頭の中は真っ白なのではないでしょうか。
この大前提を知りながら観ても、自分は江戸時代の人が感じたほどには逼迫感を感じきれていないだろうな・・と考えてしまいます。
あまりにも現代の感覚からはかけ離れたところに芝居の重点が置かれている、というのがこの演目を難しくしている理由の一つではないだろうかと思っています。
今回の平成中村座でも、最後の忠兵衛と梅川の引込みで笑いが起きていました。
(悲しいシーンで笑いが起きる現象は、封印切に限った話ではないですが。)
忠兵衛と八右衛門の掛け合いのシーンは、現代風にアレンジされたお芝居で新鮮でした。
笑いもたくさん起きていて、封印切の難しさを何とかしようという意気込みが感じられる演出でした。
獅童丈と勘九郎丈の気合がみなぎる、若々しく美しい舞台であったと思います。
五軒長屋では美味しいカクテルも売っていました。
ほろ酔いのご機嫌。
夜の部
通し狂言 小笠原騒動
タイトルの “小笠原” は、小笠原諸島(東京)の小笠原ではなく、小倉藩主小笠原豊前守の “小笠原”。
ご当地物の芝居がかかる嬉しさは、地元の人だけの特権ですね。羨ましかったです。
夜の部は、本水を使った立ち廻り、白狐のケレン、役者たちが客席を縦横無尽に駆け回るというエンターテインメント満載の演出で、劇場中が拍手喝采の大盛り上がりでした。
2階席へと掛けられた梯子を勘九郎丈が駆け上り見得を切った後、両花道へと渡した梯子に勘九郎丈を乗せたまま、お客さんの頭の上を通過したり。
地元の若者たちの小倉祇園太鼓が鳴り響いたり。
賑やかし役の村娘たちが、地元の方言で笑いを誘ったり。
これはきっと勘三郎さんが悔しがっている!と思わせる熱気と一体感の、素晴らしい楽しいお芝居でした。
ラスト、オールスターでの絵面の見得も、小倉城を背景にとてもとても美しく決まって、めでたく打ち出しとなりました。
中村座恒例、動く隠れ勘三郎さんにもご挨拶できました。
楽しかったです小倉。
東筑軒さんのかしわめし食べたり(折尾っていうツッコミはなし)、資さんうどんの「肉&ゴボ天」美味しかったし、二十軒長屋で買った “小倉織 縞縞” さんの平成中村座小倉城公演記念柄の飴ちゃん袋も可愛いし・・・
根付もまた買ってしまった。
後ろの板が中村座の定式幕にちなんだ三色になってるなんて、なんて可愛いんだ!
あれもこれももう楽しいしかない。
令和初の平成中村座は美しかったです。