クロノス 映画ネタバレ感想&考察

注意! ネタバレあり〼

原題:Cronos

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大好きギレルモ・デル・トロ監督の長編デビュー作。

「クロノス」と名付けられた機械をめぐる話。

クロノスを作ったのは、錬金術師ウベルト・フルカネリ。
モデルは20世紀に実在した“最後の錬金術師”と言われるフルカネリだろう。
1926年に「大聖堂の秘密」、1930年に「賢者の住居」を出版した。
3作目を出版せずに行方をくらましたとされているが、実は16世紀の人物ではないかとも囁かれる謎多き人物。

著作「大聖堂の秘密」が今でも入手可能とはステキな話。

映画に出てくるウベルト・フルカネリは、1536年にメキシコへ渡ったと紹介される16世紀の錬金術師。
やはりデル・トロ監督、フルカネリの描写にもゴシック愛があふれている。

そしてフルカネリは、永遠の生命を与える機械「クロノス」を作る。
手のひらサイズの黄金色の機械の中には、たくさんのの歯車と、そして赤黒くぬめぬめと光る、おぞましい幼虫のようなモノがのたうっている。

金や赤、黒の色が魅せるおどろおどろしくも美しい映像は、まさにデル・トロ監督の真骨頂。
この映画は終始、暗い美しい色合いで描かれていく。

巡り巡ってクロノスを手に入れたヘスス老は、はずみでクロノスを使ってしまう。
手のひらに食い込み、針を体内に差し込むクロノス。
中に閉じ込められたおぞましいモンスターと、血液・体液を交換するような仕掛け。
ヘスス老の血液により、クロノス内部の歯車は回転を速め、モンスターは恍惚として体をくねらせる

その後、体調の良さと同時にのどの渇きを覚えるヘスス老。
やがて渇きは人間の血を欲するようになる。

そのクロノスを狙う敵アンヘルを演じるのは、「ヘルボーイ」でお馴染みのロン・パールマン氏。

私はジュネ・キャロ監督の名作「ロスト・チルドレン」のイメージが強い。

このアンヘルによって一度は殺されるヘスス老。
闇夜の中、ひしゃげた車と冷たい砂利の中で、一人きり死んでいく寂しさに包まれる。

復活して腐った体で帰ってくるヘスス老を、優しく家に迎え入れるのは、孫娘アウロラ。

この映画において、彼女の存在は大きい

彼女は自らの意思で言葉を発しない。
おそらく世界との距離を測りかねている不器用で繊細な少女だ。
彼女は云わば、世界からのはみ出し者であり、異端である。
そんな彼女に優しいまなざしを向けてくれるおじいちゃんが彼女は大好きだ。
彼女にとってヘスス老は、自分と同じ側にいる異端の存在であり、家族なのだ。

彼女のキャラクターは、監督ギレルモ・デル・トロ自身と重なるようにも思える。
監督にとって “怪物という存在は、優しさにあふれたまなざしを僕に向けてくる” 家族であったという。

アウロラは初め、おじいちゃんの体が心配でクロノスを隠す。
それでもおじいちゃんから「どうなろうとも、お前が味方なら平気だ」と言われ、彼女はおじいちゃんを見守ることを決意する。
彼女にとっておじいちゃんは初めから異端の家族だ。
だから、ヘスス老が怪物になろうが何者であろうがそんなことは問題ではなかった
ただ大好きな家族の幸せを願うのだ。

クロノスをめぐる戦いに勝利したヘスス老は、これから生きるためには人間の血が必要になる。

腐った皮の下から大理石のような白い肌がのぞく不気味なヘスス老。
しかしアウロラは、自らの手を切り血を流し、「私はあなたの敵ではない」というポーズで自分の口元に手をやる。
その姿は「この先あなたに血を与え、秘密は必ず守ります」という彼女の意思表示に見える。
その血の匂いに心惹かれるヘスス老。
アウロラが願うのは大好きなおじいちゃんの幸せ。
「おじいちゃん・・」と、彼女は初めて言葉を口にする。

「幸せになる道を選んでほしい」という彼女の想いが詰まった言葉。
その言葉にヘスス老はクロノスを叩き壊す選択をする。

クロノスを壊すヘスス老を見て、アウロラは少し微笑んだように見える。
それは、ヘスス老が怪物になることを拒否したからではなく、“本当に” 幸せになる道を選んだからだろう。

なぜなら彼女にとって、ヘスス老が怪物になろうが何者になろうが、そんなことは問題ではなかったからだ。
ただ大好きな家族の幸せを願うだけなのだから。

ラスト、暖かな光の中で、ヘスス老は大好きな孫娘と愛する妻に看取られながら死んでいく。
闇夜の中、一人寂しく死んだあの夜との、何と美しい対比であろうか。

長編デビュー作でありながら、ギレルモ・デル・トロ監督らしい美しい作品だった。


DMM.comのDVD宅配レンタルでもあり。
新作はもちろん、旧作・名作をしっかり取り揃えているのはさすが!
「クロノス」ももちろんあります。


エンドロールのスペシャルサンクス的なクレジットのところに、ジェームズ・キャメロン監督とアルフォンソ・キュアロン監督の名前があった。ホントに昔から仲良しなんだーとほっこりしてしまった。
私が見つけられたのはこの2名。
まだまだ沢山の名前がクレジットされていたので、マニアックな人はもっと分かるのかな?羨ましい~。


監督・脚本:ギレルモ・デル・トロ
撮影:ギレルモ・ナバロ
音楽:ハビエル・アルバレス
製作年:1992年 / メキシコ